ばば、逃げろ!
4月21日(火)曇りのち晴れ
父の夕食介助に通うようになって約2週間。
父はリハビリ病棟に移って1週間以上になるが、
それでもまだまだ自分で食事が出来る状態ではない。
父は一口一口何十回も噛んで食べるので、とても時間がかかる。
他の方が2,30分で食事を終わるのに対し父は1時間20分ほどかかる。
昨日もばばがじじの食事の介助をしていると父と同じ病室の方が
食堂に入ってきた。
Aさんとしよう。
Aさんは、とっくに食事を終え、いったん自室へ引き揚げたが
ほどなく又食堂に戻ってきて、自分の指定席に座ったのだ。
介護士さんは「Aさん、今、食事終わったばかりでしょ。
どうして戻ってきたの?」と聞いたがAさんは答えず一人で座っていた。
介護士さんの話によるとAさんの年齢は90才以上だという。
Aさんは、職場は違っても父と同じ仕事をしていたそうで管理職まで勤めたそうだ。
何か父と話したくて、再び戻ってきたのかな?と
介護士さんたちは話していた。
ばばも、なぜAさんが戻ってきたのかな?と思っていたら
ほどなくしてAさんは父のテーブルに来た。
Aさんは父の食事の様子を黙ってじぃっと見ていた。
そしてばばにも色々話しかけたがばばは適当に相づちを打ったりしていた。
その後もばばは父の食事の介助をし続け、
いつもより少し早く7時前に食事は終わった。
夕食の買い物をしなければならないので、
父をベッドへ移動させるのは介護士さんにお願いして部屋を出て
エレベーターへ向かった。
中に入ってドアを閉めようとしたら、何とAさんが一緒に乗り込んできた。
不審に思いつつも一階に下りた。
でも、Aさんを放っておくわけにはいかない。
歩くのはばばの方がAさんの数倍早いので急いで受付のところに行き
居合わせた男性職員に小声で
「○階○病棟のAさんが、今勝手にエレベーターに乗って
私と一緒に下りてきました。○階へ連絡お願いできませんか?」と伝え
Aさんに追いつかれないように小走りで入り口へ向かった。
入り口のガラス戸にばばの後を追って入り口に向かってくるAさんの姿が映った。
ばばは、わざと後を振り返らず、走って外へ出た。
直後、「Aさん、勝手に下へ下りてきたらダメでしょう」と
男性職員がAさんを抱きとめているのがガラス越しに見えた。
90才も越したAさんが、何故ばばの後を追ってきたのか?
家族の誰かと間違えたのか?
Aさんは食事も歩行も介助無しでできるが、
ばばが行く時間帯に、一度もAさんの家族の姿を見かけたことはない。
今日もばばは、いつものように父の食の介助に行った。
Aさんは自分の指定席で静かに食事をしていた。
いつものように20分くらいでAさんは食事を終え、自室へ帰って行ったが
その後ろ姿を見て、ばばは愕然とした。
何と、いつも着ている病院の入院患者用部屋着の襟の後に
黒マジックで太々と「○階○病棟○○○」と
Aさんは大きな名札を背負わされていた。
札の大きさは縦5?、横は20センチ位もある。
白い布に書かれた札は、部屋着の襟のすぐ下に縫いつけられていた。
けっこう目立つ。
昨日のことがあったので、Aさんが徘徊した時など
迷子にならないようにとの配慮からだろうとは思ったが、
ちょっとAさんが哀れになったばばでした。